スマートホーム特集

このコラムでは、新しい生活様式に合わせたスマート家電の活用術やセキュリティ対策、
簡単な設定方法などを紹介し、快適で安全な生活をするためのヒントを提供します。
また、スマートホームの最新技術のテクニカル説明も行い、初級者から上級者まで幅広く情報の提供を目指します。

Vol.2

図解でわかるスマートホームの基本知識と仕組み

この記事は7分で読めます。
スマートホームのこれまでの発展歴史はもちろん、基本知識や仕組みなども図解で分かりやすく、易しく説明します。

スマートホーム概要

初めに、スマートホームの概念と仕組み、これまでの歴史と今後の発展方向について説明します。

  • IoT

    IoT」とは、Internet of Things の略で、日本語では「モノのインターネット」を意味します。インターネットに接続された物理的なデバイスやセンサーがデータを収集し、通信し合う仕組みです。これにより、デバイス間の連携や自動化が可能になります。
    IoTは、産業、医療、交通などさまざまな分野で活用されています。また、日本では経済産業省が推進するコネクテッドインダストリーズや内閣府が提唱するSociety 5.0との関連で、現在注目を集めています。

  • スマートホーム

    スマートホーム(Smart Home)とは、IoT領域の一つの分岐で、インターネットに接続されたデバイスやシステムを利用して、家庭内の様々な機能や設備を自動化し、遠隔操作できるようにした住宅のことです。これにより、住環境の快適性、安全性、エネルギー効率を向上させます。

  • スマートホームの歴史

    スマートホームは、最近の技術と思われていますが、その技術の形成は今から80年も前に始まりました。

    • 1960年代から1970年代、初期の自動化システム。1960年代:初期のホームオートメーションシステムが登場。初期のホームオートメーションシステムは、主に産業用の自動化技術を家庭に応用したもので、照明や暖房の制御が中心でした。1975年:X10プロトコルの発表。X10は電力線通信を利用してデバイス間の通信を行う、初のホームオートメーションプロトコルで、照明や家電の遠隔操作が可能になりました。 1980年代から1990年代、コンピュータとインターネットの普及。1980年代:パーソナルコンピュータの普及により、家庭内での自動化システムがより高度化。X10を利用したシステムが一般家庭にも広がり始めました。1990年代:インターネットの普及により、リモートアクセスが可能になりました。初期のインターネット接続型の、ホームオートメーションシステムが登場しました。 2000年代、ワイヤレス技術とスマートデバイスの登場。2000年代初頭:Wi-FiやBluetoothなどのワイヤレス技術が普及し、スマートデバイスの開発が進みました。ZigbeeやZ-Waveといった新しい通信プロトコルも登場し、デバイス間の通信がより効率的になりました。2004年:Nest Labs(のちのGoogle Nestブランド)が設立されました。2011年に初のスマートサーモスタットが発表されました。これにより、エネルギー効率の向上とユーザーの利便性が大きく進化しました。 2010年代、スマートスピーカーとAIの進化。2010年代初頭:スマートフォンの普及により、スマートホームの管理がより手軽に。専用アプリを通じてデバイスの操作が可能に。2016年:Googleが「Google Home」を発表し、Google Assistantを搭載。スマートスピーカー市場が急速に拡大。2014年:Amazonが初のスマートスピーカー「Amazon Echo」を発表。Alexaという音声アシスタントが搭載され、音声コマンドでの操作が可能に。 2020年代、統合と相互運用性の向上。2020年代初頭:スマートホームデバイスの種類が多様化し、照明、セキュリティ、エンターテインメント、健康管理など多岐にわたる分野での利用が進みました。2021年:Matter(旧称Project CHIP)という新しいスマートホーム標準プロトコルが発表され、異なるメーカーのデバイス間の相互運用性が向上することが期待されています。

スマートホームの仕組み

このセクションでは、一枚の図をベースに、スマートホームがどのように動作するかを説明します。
以下の実例とあわせて読むことで、スマートホームの全貌を理解できます。

    • 実例
    • 空調の自動制御
    • 要求
    • 以下の条件で空調の自動制御を実現
      • 温度>28℃ ⇒ 冷房運転、 温度<18℃ ⇒ 暖房運転
      • 一年間を運用し、電力使用量を記録し、可視化する
      • 天気予報の情報で一定期間(例えば1週間)先の電力使用量を予測できる
ステップ 説明
情報取得
  • 温度センサー(※)で温度をデジタルデータとして取得します。
  • 現在温度センサーは多くのデバイス(スマートスピーカやエアコン本体など)に搭載されてます。
データ転送
  • センサーから取得したデータをゲートウェイ(※1)経由でインターネットに転送します(※2)
  • 1 ゲートウェイはデバイス⇔デバイス、デバイス⇔クラウド通信において、ブリッジ的な役割を果たします。
  • 2 デバイスの通信規格が様々になり、組み合わせによってうまく使えない場合もあるため、注意が必要です。
データ保持・処理
  • クラウドでリアルタイムで転送されたデータを保存しつつ、チェックします。
  • 温度が18℃~28℃の範囲外の場合、エアコンに命令を発信します。
  • 蓄積したデータをダッシュボード等で可視化機能を実現し、どこからでもインターネット経由で確認できます。
  • AIモデルを利用して、天気情報のデータと過去の電力使用量データを学習し、将来の電力使用量の予測することも可能です。
  • クラウドからの命令をゲートウェイが受信し、エアコンに反映して、デバイス制御を実現します。
制御・自動化
  • クラウドからの命令をゲートウェイが受信し、エアコンに反映して、デバイス制御を実現します。

スマートホームの技術要素

スマートホームを支える主な技術要素を、網羅的に説明します。

センシング技術

センシング技術は、物理的な環境や状態を検知し、それをデジタルデータとして取得する技術を指します。
スマートホームの場合、部屋の温度、湿度、明るさなどの情報をデータとして収集し、それを家電の制御や自動化に利用することで、デバイスのスマート化などを実現します。
ここではスマートホームでよく使用されるセンサーを紹介します。

種類 説明
温度センサー サーミスタ、RTD、熱電対などがあり、温度を測定
湿度センサー 静電容量式、電気抵抗式などがあり、空気中の湿度を測定
人感センサー 赤外線(PIR)、超音波、マイクロ波、カメラベースなどがあり、人の存在や動きを検知
圧力センサー 抵抗膜式、静電容量式、圧電素子式などがあり、圧力を測定
光センサー 主に透過型と反射型があり、光の強度や波長を測定
音センサー マイクロフォンや超音波センサーなどがあり、音波を検知
化学センサー ガスセンサーや pH センサーなどがあり、特定の化学物質を検知

ネットワーク技術

スマートホームのネットワーク技術は、デバイス間の通信を実現するための重要な要素です。デバイスは、さまざまな通信プロトコルとネットワーク技術を使用してデータを送受信します。
現在、スマートホーム及びIoTで多く使用されている技術を紹介します。

    • PAN技術
    • 短距離通信、低消費電力、主にスマートホームやウェアラブルデバイスに使用
    • LAN技術
    • 高速通信、広範囲、スマートホームや産業用IoTに使用
    • WAN技術
    • 広域通信、モビリティサポート、スマートシティや遠隔監視に使用
    • その他
    • 特定の用途に特化した短距離通信技術
通信技術 通信規格 説明
PAN
(Personal Area Network)
Bluetooth
  • 概要:短距離無線通信技術で、主にデバイス間の直接通信に使用されます
  • 用途:ウェアラブルデバイス、スマートフォン、ヘッドセット、スマートホームデバイスなど
  • 特徴:低消費電力(特にBluetooth Low Energy)、短距離(数メートルから数十メートル)
Zigbee
  • 概要:低消費電力で低データレートの無線通信プロトコル。
  • 用途:スマートホーム、産業オートメーション、ヘルスケアデバイスなど
  • 特徴:低消費電力、メッシュネットワークを形成し、デバイス間の通信範囲を拡大できる
Z-Wave
  • 概要:スマートホームデバイス向けに設計された無線通信プロトコル
  • 用途:スマートホームデバイス(照明、セキュリティシステム、サーモスタットなど)
  • 特徴:低消費電力、メッシュネットワークをサポートし、信頼性が高い
LAN
(Local Area Network)
Wi-Fi
  • 概要:高速で広範囲の無線通信技術
  • 用途:スマートホームデバイス、セキュリティカメラ、スマート家電など
  • 特徴:高データレート、広範囲(数十メートルから数百メートル)、インターネット接続が容易
Ethernet
  • 概要:有線通信技術で、高速かつ安定した通信を提供
  • 用途:産業用IoT、スマートホームのハブデバイスなど
  • 特徴:高速、安定、セキュア
Thread
  • 概要:低消費電力でメッシュネットワークを形成する無線通信プロトコル
  • 用途:バッテリー駆動のデバイスや低消費電力が求められるデバイス(例:スマート照明、センサーなど)
  • 特徴:メッシュネットワークをサポートし、デバイス間の通信範囲を拡大可能、低消費電力
WAN
(Wide Area Network)
Cellular(4G ⁄ 5G)
  • 概要:携帯電話ネットワークを利用した広域通信技術
  • 用途:車両テレマティクス、遠隔監視、スマートシティアプリケーションなど
  • 特徴:広範囲、高データレート(特に5G)、モビリティサポート
LoRaWAN
  • 概要:長距離通信と低消費電力を特徴とする無線通信技術
  • 用途:スマートシティ、農業、産業用IoTなど
  • 特徴:長距離(数キロメートルから数十キロメートル)、低消費電力、低データレート
その他 RFID
(Radio Frequency Identification)
  • 概要:無線通信を利用して物体を識別する技術
  • 用途:物流、資産管理、在庫管理など
  • 特徴:パッシブRFIDタグは電源不要、短距離通信
NFC
(Near Field Communication)
  • 概要:短距離無線通信技術で、主にデバイス間の直接通信に使用
  • 用途:モバイル決済、アクセス制御、データ交換など
  • 特徴:非接触、短距離(数センチメートル)
Matter
  • 概要:既存の通信技術を利用して、デバイス間の通信を共通化する技術
  • 用途:スマートホームデバイス間の相互運用性を向上させる
  • 特徴:相互運用、セキュア、拡張性

クラウド技術

クラウド技術は、インターネットを通じてリモートサーバーでデータの保存、処理、管理を行う技術です。
クラウドの用途を下記に纏めていますが、日々クラウドの機能が進化しているため、スマートホームや、IoTの発展に強力なサポートを果たしています。
AWS IoT、Google Cloud IoT、Microsoft Azure IoT などIoT向けのクラウドプラットフォームが広く利用されています。

用途 説明
データストレージ デバイスから収集される大量のデータを効率的に保存します。クラウドストレージはスケーラブルであり、データの増加に応じて柔軟に対応できます。
データ処理 クラウド上でデータをリアルタイムに処理し、分析結果を提供します。
これにより、迅速な意思決定が可能になります。
データの共有とアクセス クラウド技術を利用することで、異なる場所にあるデバイスやシステム間でデータを容易に共有できます。
セキュリティとバックアップ クラウドサービスは高度なセキュリティ機能を提供し、データのバックアップも自動的に行われます。

データ分析技術

データ分析技術は、収集されたデータを解析し、有用な情報や洞察を引き出すための技術です。
Apache Hadoop、Apache Spark、Tableau、Power BI などのデータ分析ツールが広く利用されています。

処理内容 説明
データ前処理 収集されたデータをクリーニングし、ノイズを除去します。
データの正規化や欠損値の補完も行います。
データ解析 機械学習アルゴリズムや統計手法を用いてデータを解析します。
これにより、パターンやトレンドを発見し、予測モデルを構築します。
可視化 解析結果をグラフやダッシュボードとして可視化し、意思決定者に提供します。
リアルタイム分析 デバイスからのデータをリアルタイムで解析し、即時のフィードバックやアクションを可能にします。

AI技術

AI 技術(人工知能技術)は、コンピュータが人間のように学習し、推論し、意思決定を行うための技術です。
スマートホームにおいては、AI 技術がデータの解析や自動化において重要な役割を果たします。
TensorFlow、PyTorch、Scikit-learn などの AI フレームワークが広く利用されています。

種類 説明
機械学習 大量のデータを基にアルゴリズムが学習し、予測モデルを構築します。
これにより、異常検知や予知保全が可能になります。
ディープラーニング ニューラルネットワークを用いた高度な機械学習技術で、画像認識や音声認識などに利用されます。
自然言語処理(NLP) テキストデータを解析し、意味を理解する技術です。チャットボットや音声アシスタントに利用されます。
強化学習 試行錯誤を通じて最適な行動を学習する技術で、ロボティクスや自動運転車に利用されます。

まとめ

いかがでしたか。
身近に感じられるスマートホームには、さまざまな技術が使われています。
技術上は、特に通信とクラウドの課題がまだまだ残っています。たとえば、機材登録・設定の複雑さ、プラットフォーム間の連携の壁、通信やクラウドのセキュリティ問題などが存在します。これらの課題を解決するために、IoT向けのクラウドサービスプラットフォームや、デバイスの統一通信規格「Matter」などの技術が現れました。
「Matter」を中心として、スマートホームはさらに進化し、人々の豊かな生活の実現に役立つことが期待できます。