Thread技術コラム
IoT機器間を低消費電力で安全なメッシュ通信を実現するプロトコル

Threadとは?

Thread概要

Threadとは

Threadとは、IoT(Internet of things)製品向けにIPv6ベースの低消費電力メッシュネットワーク技術を採用し、安全性と将来性を両立させるようGoogle傘下のNest Labsが主導して設計されたネットワークプロトコルです。

Threadプロトコルの仕様は無償で入手可能ですが、エンドユーザーライセンス契約(EULA)への同意と継続的な遵守が必要で、「"Thread技術およびThreadグループ仕様の実装、実践、出荷には、Threadグループへのメンバーシップが必要である。」と定義されています。
Threadグループのメンバーシップは、"Academic"や"Associate"メンバーを除き、年会費が必要です。

Threadの主な特徴

メッシュネットワーク

無線機器を網目のようにつなぐメッシュネットワークを自己形成することで、通常では電波が届かない場所への通信を可能にします。
そして、ネットワーク内のどの機器が故障しても、バックアップする仕組みのため、堅牢です。

ネイティブIP(インターネットプロトコル)通信

インターネットのIP通信網をそのまま無線通信に使用できます。

ユーザーにやさしいネットワーク管理機能と高セキュリティを両立

ネットワークに新しい機器が参加する際のプロセスが工夫されており、IoTでは特に重要度を増しているセキュリティ対策が施されています。

長期間の電池駆動が可能

Threadのエンドデバイスは、自己の都合でスリープ状態に居ることができるため、長期の電池駆動が可能です。

Threadは、エッジルーターと呼ばれる接続ルーターを利用する、6LoWPAN(IPv6 over Low-power Wireless Personal Area Networks)を用いていて、ZigBeeなどと同様に、メッシュ通信を行うIEEE 802.15.4の無線プロトコルを使用しています。
一方、ThreadはIPアドレスの指定も可能で、クラウドアクセスやAES暗号化にも対応しています。
つまり、Threadでは認証されたデバイスのみがネットワークに参加できるため、高いセキュリティレベルを維持することができます。
また、ネットワークを介したすべての通信は、ネットワーク鍵によって保護されます。

Thread Group

2014年7月16日、IoT製品が活用できるスマートホームの無線ネットワークプロトコル「Thread」の導入促進を目的として、Threadが業界標準になることを目指し、各社製品にThread認証を提供するワーキンググループ「Thread Group」アライアンスが結成されました。
初期メンバーは、ARMホールディングス、Big Ass Solutions、NXP Semiconductors/Freescale Semiconductor、Google子会社のNest Labs、OSRAM、Samsung、Silicon Labs、Somfy、Tyco International、QualcommおよびYale lock companyでした。
2018年8月にはApple Inc.が参加し、2020年後半に初のThread製品「HomePod mini」をリリースしました。

Thread製品「HomePod mini」を使用しているタブレット端末の画像

2019年には、Amazon、Apple、Google、Zigbeeなどの大手IT企業や関連団体が主導する、Connected Home over IPプロジェクト(後に「Matter」に改名)が発足しました。
Connected Home over IPプロジェクトの主な目的は、異なるメーカーのデバイスがシームレスに連携できるようにすることです。
そして、ThreadおよびWi-FiやBluetooth Low Energyの技術を活用し、家庭内接続の相互運用性を促進するためのロイヤリティフリーの規格と、オープンソースコードベースの作成に向けた幅広い活動を開始しました。

BSDライセンス

BSDライセンス(Berkeley Software Distribution License)とは、オープンソースソフトウェアのライセンスの一つで、主に以下の特徴があります。

  • 自由な使用
     ソフトウェアを自由に使用、改変、配布できる。
  • 著作権表示
     ソースコードやバイナリを配布する際には、元の著作権表示とライセンスの通知を保持する必要がある。
  • 制限が少ない
     他のライセンスに比べて制約が少なく、商用利用も可能。

ThreadのBSDライセンスによるオープンソース実装は「OpenThread」と呼ばれ、Googleから公開されています。また、BSDライセンスは、シンプルで柔軟なため、多くのプロジェクトで採用されています。

近距離無線規格

各技術の比較

上図の通り、高速伝送が特徴であるWLAN、短距離無線が最大の強みであるANT、スマホ連携が得意なBluetooth、国内ではあまり普及していないが世界的には普及しているZigBee、1GHzまでの無線周波数で多様な周波数と通信速度が実現できるSub-GHz無線とその拡張システムなどに分けられます。

Thread各技術の比較表

上の表から読み取れる通り、国際規格のIEEE802.15.1では、ネットワークトポロジーはP2P、Starです。
これは、IEEE802.15.1という規格をベースにすると、P2P(1対1)やStar(1対N)という比較的簡単なネットワーク構成しか取れないということを示しています。
一方、IEEE802.15.4の場合は、P2P、Star、Tree、Meshといった、すべてのネットワーク構成が可能になります。

ZigBeeとThread

ZigBeeとThraedは、ほぼ同義で使われることがありますが、二つの規格の共通点は低消費電力と低データレートを特徴としていることです。
スマートホーム空間における、無線制御や監視アプリケーションなどの低消費電力を維持しながら、近距離で、かつ少量データの無線通信に適しています。

ZigBeeとThraedの主な違いのひとつとして、Threadがインターネット・プロトコル・バージョン6(IPv6)を活用している点があります。
Thread は、既存の IPv6ベースのWi-Fiネットワークと普通に接続することが可能です。
一方、ZigBeeはゼロからネットワークを構築する必要があり、ネットワーク内の各ノードは16ビットのアドレスを取得し、アプリケーション・レイヤー・ゲートウェイを使ってIPに変換することが必要になります。
下図に示すように、Threadがアプリケーション層を定義していないのに対して、Zigbeeはアプリケーション層までに定義しています。
このため、アプリケーション層の開発容易という点からはThreadの方がより柔軟性が高くなります。

ZigBeeとThraedの比較

ZCL:Zigbee Cluster Library
BDB:Base Device Behavior
APS:Application Support Sub-layer

もう一つの違いとして、消費電力が挙げられます。
Threadは、バッテリー駆動のIoTデバイスに適した低消費電力プロトコルとして設計されています。そのため、エネルギー効率に優れたルーティングアルゴリズムを使用して、消費電力を最小限に抑えられます。これにより、Threadデバイスは、スリープ期間を最適化し、アイドル時のエネルギー使用量を削減することで、長時間のバッテリー駆動を実現できます。
一方、ZigBeeは、低消費電力動作でも知られていますが、上図で示すようにソフトウェア・スタックが大きいため、Threadよりも消費電力が大きくなる傾向があります。

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